面白い小説を発見したと思いました。『十面埋伏』は「じゅうめんまいふく」と読み、意味は、敵は見えないところに潜んでいる。ジャンルでいえば冒険小説に形を借りた社会派リアリズム、と言えばいいか。 物語の発端は、中国のある刑務所の刑務官が、死刑判決を受けたはずの殺人犯が何故か15年の刑に減刑されて、本人が周囲の囚人や刑務官に「おれは2,3年でシャバに出られる」と公然と言い放っていることに強い疑惑を抱き、調査を始める。そして、即座に公権力を持つ者から烈しい脅迫を受ける。殺すぞ、と。公権力の裏に大きな犯罪組織があることを悟り、身の危険を感じる。だれを信用したらいいのか。その判断を間違えれば命はない。物語の展開は刑務所に留まらず、様々な人物が登場して政府要人の怪しい動きにまで迫る。腐った権力者との命がけの戦いが実によく活写されている。スケールの大きな小説だ。 しかし、中国でこのような内容の小説がよく発表できたなというのが、正直な感想です。作者によれば取材の過程では、相当な圧力があったという。 いずれにしろ、「現代中国が抱える政治的文化的社会的テーマ」を鋭く追及する。それでいながら、冒険小説の形の娯楽小説風になっているので、読みやすい。テーマは重いのだが、ハラハラドキドキしながら一気読みしてしまった。文句なくお薦めです。
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