秋野智之44歳、城南銀行五反田支店次長、妻と3人の子あり。 ある日入社して5年目の部下、森村茜が担当する大事な顧客を怒らせてしまい、謝罪するために彼女とともに先方を訪ねた。顧客はかえって上機嫌で、酒の席に付き合った挙句にやっと帰してもらえたのだが、その帰りみち、安堵したのと仕事の重圧で茜は泣き出してしまう。 「むなしいです。なぜそこまでして気に入られなければならないのか」 普段は男性社員に気軽に飯も誘えないなどといわれている茜のひどく切ない表情に、智之は突然彼女をそっと抱きしめてあげたくなった。 もっと若くて、きらきらと輝いていた、あのころの自分だったら、目の前で無防備に泣いているこの子をきっと好きになってしまっただろう。 スピッツの曲を教えられるなどしてかつてないときめきを感じる智之。この気持ちの行方は。 リアリズムの名手が、理性では抗えない人間・人生の不可思議を描く。
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