【 日本唯一の農業書専門書店 】日書連
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- 日時: 2009/11/03 16:44:59
- 情報元: 日書連
- 東京・大手町は日本有数のビジネス街だが、近年、都市再開発により町の様相は一変しようとしている。
JAビル内で15年前から営業を続ける日本唯一の農業書専門書店「農業書センター」もこの4月に旧店舗から300メートルほどのところに移転したばかり。
農業書の販売を通じて農家を元気にしたいという川村裕哉店長に、専門書店として独自の存在感を示す同店のコンセプトを聞いた。
〔「農」を核に地域の活性化支援〕 東京駅の西側に位置する大手町。
日本経済の中心地として政府系金融機関、大手銀行、商社、新聞社の本社などが集まる。
近年は建物の老朽化が進み、再開発が盛んになっている。
この地域は皇居前ということもあり、建築基準によって建造物の階数に厳しい制限が設けられていた。
しかし、現在は緩和され、東京サンケイビルをはじめとした超高層ビルが建つようになり、隣接する丸の内とともに日本屈指のビジネス街を形成している。
農文協・農業書センターが入るJAビルも大手町再開発の一環として今春、大手町1丁目8番地から旧大手町合同庁舎1、2号館跡地の同3番地へと移転。
地上37階・地下3階の超高層ビルに生まれ変わった。
31階建ての日本経済新聞社東京本社ビル、23階建ての経団連会館が隣接し、オフィス、国際カンファレンスセンター、店舗などの複合施設を形成している。
農業書センターもJAビルとともに移転し、新ビルの地下1階に入居。
今年4月13日にリニューアル・オープンした。
農業書センターの創業は1994年。
出版社の農文協が農業書を展示販売するために始めた。
農文協の読者は主に農家の方々。
農文協の営業は農家を回る。
「田舎には本屋がない」「農業書をまとめて取り扱っている書店がない」という声をたくさん聞かされた。
こうした声を受けて「日本唯一の農業書専門書店」というコンセプトが生まれた。
当初は農文協を含む農業書協会会員11社の出版物のみの取り扱いだったが、「入手しづらいものも」という農家からの要望を受けて自費出版、地方出版、都道府県刊行物へと取り扱いを広げていった。
もちろん講談社、小学館など大手出版社の農業書も揃える。
初代店長は斎藤進さん。
「農家からの要望はとにかくすべて叶える」が口癖だった。
斎藤さんの後を受けて、昨年7月に2代目店長に就任した川村さんも「お客様の声にきちんと耳を傾け続けてきた結果、自然と取り扱い点数が増えていった」と語る。
川村店長は1946年生まれの62歳。
岩手県北上市の農家に生まれた。
今もお兄さんが農業を続けている。
高校まで北上で過ごし、信州大学人文哲学科に入学。
大学を卒業後、農文協に就職。
「家の仕事はよく手伝っていた。
農家の役に立ちたいと思っていた」という。
農文協入社後は営業一筋。
農村を歩き雑誌「現代農業」の普及などにつとめた。
全国7支部のうち5支部と東京本社に勤務したあと、61歳で農業書センターに異動。
東京本社勤務時代に書店への営業を3年間やった経験から、出版社営業マンから書店店長への転身にもそれほど戸惑いはなかった。
店長になってから1年も経たないうちに、新しい店舗へ移転。
店のコンセプトは旧店舗時代から基本的に変わらないという。
「地域の活性化と農業の発展に資する品揃えをすることが第一。
これが創業時から脈々と流れる農業書センターの精神」。
〔高まる農・食・環境への関心〕 約43坪の売場には農業技術、農業経済、家庭園芸、農業一般、地域開発、環境問題、食生活食文化、加工栄養から食農教育など農業、農村とその周辺の関連書3万冊がすっきりと陳列されている。
「農」で埋め尽くされた書棚は圧巻だ。
分野別では農業8割、食1割、環境1割。
一般書はまったく置いていない。
そんな専門店ならではの売場の中で目立っていたのは、「地域を元気にする農産物直売所フェア」。
農産物直売所とはその直売所が立地する周辺の農家が運営して、地元の農産物を販売する施設。
生産者と消費者が情報交換する拠点ともなっており、その地域ならではの商品開発に結びつくこともある。
近年、地域活性化に役立つとして注目されている。
書棚5段を使ったこのコーナーは、農産物直売所に関する書籍64点が並ぶ。
農業書センターはテーマを絞ったフェアを1カ月ごとに展開している。
これまで「蜜蜂フェア」などを展開してきたが、今回の直売所フェアの反応が最も良いという。
来店する客は地方の農業関係者が最も多い。
JAビルには全国農業協同組合中央会、全国農業協同組合連合会、農林中央金庫が入っており、全国から関係者が毎日のように訪れる。
東京駅からも至近で、上京してきた地方の人たちが訪れやすい立地と言える。
地方の客は年に2、3回しか来店できないため、1回当たりの滞在時間は2、3時間に及び、3万円から5万円分の書籍を買っていく。
実際、取材中も雑誌「現代農業」のバックナンバー5冊をまとめ買いしている客がいた。
客単価は非常に高く4千円ぐらいとのこと。
また、隣接する日本経済新聞社、経団連の社員・職員も来店し、主に食糧問題の本を買っていく。
女性客は米粉を使ったパンやお菓子作りの本を買っていく。
近年の農業、食糧、環境問題への関心の高まりとともに、農業書センターの客層も広がりを見せ始めている。
一般ビジネス誌などが農業を特集するようになり、大手町のビジネスマンがふらりと来店して購入するのだ。
ニッポンの食と農業を特集した「週刊東洋経済」10月17日号は100部売れた。
1年前の農業特集号もトータルで270部販売した。
新規就農に関する書籍の出版も盛んだ。
こちらは30代の脱サラ組、60歳前後の団塊世代がターゲットである。
農業技術通信社が昨年創刊した季刊誌「アグリズム」の売れ行きも好調。
同誌は新規就農者向けのライト感覚の雑誌。
最新号では、ライブドア元CEO堀江貴文氏のインタヴューや、派手なメークに奇抜なファッションのギャルによる農業体験記など、ユニークな記事が満載だ。
また、元ギャル社長の藤田志穂さんが今度は「ノギャル(農をするギャル)プロジェクト」を立ち上げ農業に挑戦、中公新書から『ギャル農業』という本まで出した。
こちらも一般読者によく売れており、30部追加注文を出したという。
ここ1年で最も売れた書籍は『奇跡のリンゴ』(幻冬舎)。
主人公の農家・木村秋則さんが無農薬・無肥料のリンゴを作ることに成功するノンフィクションである。
テレビで取り上げられた効果は大きく、ナチュラル志向の一般読者に受けて、昨年8月発売以来200部販売した。
「かっこ悪い、泥臭いと思われてきた農業がかっこいいものになって、関心を持つ人が増えてきた。
当店の客層の中心は50代男性だが、最近ちょっと変わってきたなという感触はある。
若い女性のお客様も増えている」 全国の顧客が商品を購入しやすいようにと、店頭とともに、インターネット書店「田舎の本屋さん」にも力を入れている。
通販の注文はウェブ、電話、ファックスで受ける。
トーハン帳合だが、地方出版、自費出版、都道府県刊行物の取り扱いが多いため、仕入先は200カ所を超える。
「そのあたりが専門書店の大変なところ」という。
では、専門書店をやっていてうれしいことは。
「初めてのお客様の中には農文協の本しか置いていないと思っている方もいらっしゃるから、様々な農業書が揃っていることに驚く。
『目当ての本が見つかった』と言っていただくのがいちばんうれしい」 そんな川村店長が大切にしているのは、農家を良くすること、地域を良くすること、そのために役立つ本を早く届けること。
「人間は今まであまりにも自然を破壊してきた。
農業は環境を守ることができるということに気づいていただきたい。
お客様の声を第一に、農業と食と環境の専門店として可能性を追求するのが農業書センターの役割だと思っている」 (本紙・白石隆史)
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