「リアル書店が生き抜くために必要なこと」/北海道書店商業組合副理事長、帯広市ザ・本屋さん高橋千尋氏/東京国際BFセミナーから
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- 日時: 2013/08/07 16:25:56
- 情報元: 日書連
北海道帯広市を中心に「ザ・本屋さん」を経営する高橋千尋氏(北海道書店商業組合副理事長)が、7月3日の東京国際ブックフェア専門セミナーで「小売業は『時代変化対応業』〜リアル書店が生き抜くために必要なこと〜」と題して講演。大手チェーン店が進出する中で地域書店としてどのように生き残ってきたのか、宣伝・企画の工夫や宅本便サービス、社員教育などの取組みを語った。
〔地域密着経営で存在価値示す〕 私は1947年に帯広の愛国で生まれました。東京の通信技術会社に就職して、検査と保守業務で10年、そのうち海外で5年勤務しました。1977年、帯広に戻って父が経営する高橋書店に入社。1983年に緑図書企画という会社を作り、「ザ・本屋さん」を開店しました。商店街や郊外、複合店、地元スーパーや大型店に20坪〜750坪の店舗を出店しています。 商圏環境は、帯広市が17万人、周辺3町と合わせ24万人、十勝管内19市町村の総計で35万人。帯広を中心に東西南北1時間の商圏となっています。帯広の店は「ザ・本屋さん」5店と、(株)キクヤ図書販売と提携して出店した大型店「帯広喜久屋書店/ザ・本屋さん」になります。 出版物の販売金額は、1996年の2兆6000億円をピークに下がり続けています。書店業界、特に地方書店を支えている雑誌の売上がどんどん減り、あと数年で書籍の売上以下になってしまうのではないかと認識しています。大型チェーン店との競合や、図書館の機能が地域のエンターテインメント空間となろうとしている中で、我々のような地域に根差したリアル書店が、今後どう生き残っていくかが問われています。 「ザ・本屋さん」というネーミングは、1983年に企画会社を設立して出店店舗の企画をした際、一つのお店を商品として考える中で「ザ・本屋さん」という名前が出てきて、後にはそれを社名としました。 宣伝についての考えですが、お店のお客さんは、進学、就職、転勤、競合店出店などにより年10%以上は減り続けます。そのため、お店の存在価値を示していかなければなりません。地域密着経営をして、いろいろな活動をすることが投資となってお客さんに店に来てもらえる。新聞やコミュニティ放送などのパブリシティを利用して、視覚や聴覚に訴えることを絶えずやり続けています。 ホームページやFacebookも比較的早い段階から利用を始めました。また、出版社のPOPコンテストに積極的に参加しています。路線バスへのバス広告も、10年以上前からやっています。十勝では2つのフリーペーパーが各10万部配布されていて、合同でフェアを開催したりする協力関係になっています。 出版社と提携して作家の講演会やサイン会を開催するほか、図書館とも連携して多目的視聴覚室を無料で使わせてもらい、講演会や「本屋さん公開講座」を実施しています。文化サークルや経営者団体の講演会なども地域の顔を作るということで積極的に行っています。「本屋さん公開講座」は、当社の社員が講師となって書店の今後の動向や業務について解説するもので、今年から始めました。 外商や宅本便は、他の書店が面倒な活動として撤退する中で、地域密着活動として行ってきました。配達は、店に来ないお客さんをどうやって動機づけて買っていただくかということです。お客さんのロングテール化をやっているようなものですから、「全顧客の2割に売上の8割が依存している」としても、地域密着の書店が他の8割を捨てていいのか。それを捨てたことが、老舗書店がだんだんなくなっていった一つの原因ではないかと思います。 官公庁や学校、事業所、個人宅などに車5台の宅本便で配達しています。集金については、本部や店頭に持参してもらったり、地元の金融機関、郵便局の振込みや自動引落しなどが利用できるようにしました。配達して不在の時は、お客さんと打ち合わせて車庫に置いたりするなど、二重手間にならないように工夫しました。 ルート外商がだめになってきたのは、一人ひとりがノルマを持って外商の売上を作っていく方式にして、お客さんをつなぎ止めるために色々なことをして効率が悪くなっていったことがあると思います。外商についてはノルマを作らず、細かいものは配達の方に任せるということで分業化させました。 学校のインターンシップは、コミックス『銀の匙』の作者が出た農業高校から生徒を受け入れたことをきっかけに、今は小学校から中学、高校までのインターンシップに協力しています。
〔時代に合った経営形態求める〕 採用についてですが、業界や店舗、個人の生活のインフラもどんどん変化してきています。先月は、若い人に応募してもらうために「スマートフォンが使える方」という一言を入れました。読み取り計算や、業界用語の入った漢字テスト、応募アンケートを行うほか、面接における採用評価表によって、電話をかけてきた時や電話を折り返した時、面接の時の態度などを全部評価します。私が面接する本部面接のあと、現場に回して店長が本人ともう一度会って出勤日を決めます。パートやアルバイトには、多忙期に突然退職されるのを防止するため、3ヵ月ごとに雇用の申請を出してもらいます。 採用後の教育では、1年以上の勤務者全員に販売士3級、長期の勤務者には2級の資格取得を奨励しています。また、社内研修会を決算後と秋の2回開催します。コスト意識については、削るのではなくて、あるものを利用しなければならないということをしつこく言っています。 万引対策は、現行犯の捕捉を主体にする業界が多いと思いますが、そうすると、従業員は忙しいから、面倒だからと見て見ぬふりになります。私どもは無理な捕捉をさせないで、Webカメラなどの防犯カメラで犯人の顔を撮影し、皆に認識させて、各店へ写真を手配します。警察には被害が判明したものは必ず届けるようにします。これによって常習犯や集団の窃盗犯を捕えていきました。 出版業界が1兆円を超えた頃から30年経営してきていますが、その中でお客さんには比較的支持されている本屋だと外からは見られます。しかし、働いている人の労働環境などを改善できているかというとなかなか難しいです。それでもうちの場合は良い人に来て働いてもらっています。 経営は、勝とうとしないで負けない戦いをするということが大事です。スクラップ&ビルドの3歩前進2歩後退を信条として、郊外への出店やインショップ展開など、時代の変化に対応してこれまでやってきました。少子高齢化、縮小均衡の中で、時代に合った規模や経営形態を求めることが必要です。 地域に書店があることの意味についてですが、書店は地域教育の場だという認識がなく、書店がなくなってから大変だと大騒ぎされます。いくら電子書籍、オンラインと言っても、幼児から高校生くらいまでは、リアル書店がないと困るわけです。電子書籍端末がどんどん発達しても、ついていけない人は少なくないと思います。 出版社が苦労して作っている本を理解して売るために、末端の書店員がきちっとしなければならない。しかし、そのような教育機関も資格制度もないのは残念です。小さな書店が地域で生き残っていないと、出版社が作った本が、お客さんの手に届かなくなります。そういう意味で、どうして「本屋の日」がないのかと思います。一斉休配と一斉休業をやってくれれば、私も従業員も楽なのに、と思います。 アマゾンやオンライン書店は、運輸業者が発達させてきた流通機能を使って本を売っているわけですが、それに出版業界が追いついていない。北海道の場合はいまだに雑誌は2日遅れですし、雪の事故があって一地方で荷物が止まると、北海道全域の発売が止まってしまう。昔と違って「明日入ります」と言っても、お客さんが明日来るわけがないです。ですから一刻も早く届けることが必要です。 出版業界は「合成の誤謬」を起こしていると思います。出版社も取次も書店も生き残るために正しいことをやっています。しかし、アマゾンやネット販売に負けている。それは、お客さんのためということになると、正しいことをやっていないからです。全体を考えないで自分のところだけの業績を守っている。お客さんから見放されないように、アマゾンにできることは出版業界もきちっとやっていかなければいけないと思います。
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