出版・書店 業界 NEWS BOOKSルーエ


出版書店 業界NEWS TOPへ > 記事閲覧           新文化 定期購読 受付  

万引と捕捉、正しい方法で/不明ロス削減は収益改善に大きな効果/ウェリカジャパン・豊川奈帆社長、書店の万引対策語る
日時: 2019/04/13 21:28:38
情報元: 日書連

店舗の万引き・内引きを中心としたロス対策コンサルティングやセキュリティシステムの企画・設計などを手掛けるウェリカジャパンの豊川奈帆社長が、2月19日、東京・千代田区の中央大学駿河台記念館で「書店における万引き防止対策」をテーマに講演した。中大卒業生の出版関係者で組織する出版白門会が「平成30年度出版関連セミナー」として開催したもの。豊川社長は長年にわたり書店の万引防止の指導に関わり、三洋堂書店のロス率を大幅に下げた実績を持つ。同書店の加藤和裕社長との共著『書店経営者が書いた万引き防止の完全対策』『万引きさせないお店にする方法』(ともに中経出版)もある。講演の内容を紹介する。

〔万引犯、あらゆる世代に存在/「高齢者が多い」統計の裏側にある事情〕
警察庁が発表した「万引き検挙人員―年齢階層別」によると、未成年の万引きは減少傾向にあるが、被害届が受理されなかったり、店舗での注意で終わらせているケースが多いことで、検挙人数が減少傾向になっているのが実情だ。
20代から60代前半が少ないのも、店舗での注意で終わらせていることが大きい。店側が被害届を出すために何時間も拘束されることを嫌うからだ。逃げ足が早いことも原因。この世代は会社員が多く、勤め先をクビになりたくなくて死にもの狂いで逃げる。
高齢者が多い理由は、逆に逃げ足が遅いから。体力がないのですぐ捕まってしまう。失うものが少ないこともある。1人暮らし、年金でギリギリの生活をしている。友だちもいない。だから、食事の心配がなく、冷暖房もある刑務所に入ったほうがいいと思っている人もいる。
統計の数字だけを見て、その背景にあるものを見ないと、万引犯罪の実態を見誤ることになる。高齢者が多いと言われるが、実際はあらゆる世代に万遍なく万引犯は存在している。
一般的な書店のロス率は0・6%で、年間ロス額70万円だとすると、1日1918円の被害を受けていることになる。仕入代金を支払うためには、粗利20%とすると1日7672円、1ヵ月23万160円の本を余計に売らなければならない。さらに、利益を出すためには、1日19万1800円、1ヵ月575万4000円の本を余計に売らなければならない。
これだけの売上げをあげられますかと聞くと、「毎日『ONEPIECE』や『進撃の巨人』の新刊が出てくれないと無理」とおっしゃる。この数字を知ると、なぜロス率を下げなければいけないかを実感してもらえる。万引きで書店が潰れたという話はよく聞くが、潰れる理由が分かったと危機感を持つ。万引き対策への意識付けが生まれる。売上増で利益を増やすことは難しくても、ロス率を下げることができれば利益を増やすことは可能。ぜひ取り組んでほしい。

〔「良い接客」は万引対策を兼ねる/「盗めそうだ」と思わせない店作りを〕
書店側がとる万引対策には、声掛けと巡回による「予防」、私服警備員、店員、警察が行う「捕捉」がある。
声掛けには客の入店時・退店時、店舗内作業中などの場面ごとにやり方がある。物陰に隠れて監視しているだけだと雰囲気の悪い店になり、客からクレームが来る恐れもある。巡回も、店内をぐるぐる回っているだけでポイントが分かっていないと予防の効果はない。「本当の死角」を巡回しなければいけない。
店の隅や奥が死角だと思われがちだが、分析してみると、「本当の死角」はレジ前や児童書売場であることが多い。レジ前は店員がいるから大丈夫という気になってしまい、注意が払われていない。そこを万引き犯は見逃さず、店員の動きを見ながらバッグの中に商品を入れる。児童書売場は子供が本を読んだ後ちらかって、商品を隠しやすい場所になる。
店員同士の情報共有も重要だ。怪しい動きをしている人がいたら、他の店員にも知らせる。万引犯は店員の動きをよく見ている。自分をマークしている店員がいる時は万引きしない。いなくなった瞬間に万引きする。それを防ぐには店員同士の情報共有が不可欠だ。
万引対策は危険を冒して万引犯を捕まえたり、不審者を警戒するだけではない。店員ができる万引対策で最も重要なのは、万引きできない店を作ること。一番の万引対策は予防で、犯人の捕捉はその次の作業となる。万引犯が嫌がるのは、接客の良い店舗だ。怪しい人がいたら監視するのではなく、笑顔で相手の顔を見てはっきり聞こえるように「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」とあいさつする。良い接客を行えば店の雰囲気が明るくなり、来店客が増える。日頃から店員同士の情報共有を行っていれば、コミュニケーションのとれた働きやすい職場になるというメリットも生まれる。

〔警察と連携して犯人捕捉率アップ/防犯機器頼みは「油断」の元にも〕
捕捉がなかなか増えない理由の1つとして、防犯機器を有効活用していないことが挙げられる。万引防止ゲートが鳴っても声かけ等の対応をしていない店が多い。ゲートがあるから大丈夫と機器に頼って、万引きに対する意識が低い。ゲートが鳴っても気付かなかったり、どうせタグの抜き忘れだろうと何もやらない。
ある万引犯と話したとき、「万引防止ゲートや防犯カメラがある店ほど万引きしやすい。防犯機器があることで店員が安心して無関心なので、声を掛けられることがない。店員はカメラの映像を見ていないし、たとえ見ていても画質が悪いから何とでも言い逃れできる」と言っていた。
「この人は怪しい」という思い込みで声を掛けてはいけない。故意に誤認逮捕させる万引犯もいる。店側を名誉棄損で訴え、示談金を払わせることが目的だ。
ある書店で、レジの店員が不審な客を発見した。高額本を購入して、「カバーも袋もレシートも要らない」という。そして、そのまま店を出て行かずに売場に戻り、購入した本を読み始めた。レジの店員は売場で陳列を直している店員に連絡した。すると、不審者はその店員の横でわざと見えるように購入した本をカバンの中に入れ、店を出て行ったという。
このときは店員間の情報共有ができていたから、「ありがとうございました」と普通に送り出すことができたが、もし売場の店員が知らないで声をかけていたら、「ちゃんと買った。レジの店員に聞いてみろ。名誉棄損だ。訴えてやる」とトラブルになっていたところだ。こうしたケースで店側が損害賠償請求され、示談金10万円を払う結果になったこともある。
警察との連携も重要。万引犯を捕捉したときや悪質な常習犯を発見したとき、すぐに管轄警察署に相談や被害届を提出し、日常的に情報を警察に話しておくと、すぐに駆けつけるなど協力的に対応してくれるようになる。警察は安全に犯人を捕まえて、責任も負ってくれる。店側のリスクが少なくて済む。警察を有効活用してほしい。

〔損害賠償は妥当金額を請求/捕捉に費やした人件費も対象〕
万引きは刑事事件だ。被害にあった時、警察に通報し、被害届を受理してもらう。警察官は犯罪による被害の届出をする者があったときは受理しなければならないと法令で規定されている。被害届が受理されると捜査が開始され、被疑者を検挙逮捕し、検察官に送検する。検察官が受理すると、起訴するかしないかの判断を行い、起訴の場合は裁判が開かれる。これは司法対被疑者の戦い。
一方、民事上の損害賠償請求は被害者対被疑者の戦いで、警察は一切未介入。損害を受けた商品、防犯タグや什器などの器物破損の実費、万引犯の捕捉に費やした人件費を、店が万引犯に対して損害賠償として請求する。その後、被疑者が示談を申告した場合、示談を了承し、告訴を行わないと署名すれば、刑事事件は終了する。示談しないとした場合、被疑者は告訴される可能性があるが、店が買取をしている場合、考慮されることが多い。示談を申し出たことで反省しており、さらに被害品も復旧されたとして、起訴まで行かないこともある。損害賠償請求を行う場合、商品の買取をしてしまうと損害賠償が認められることは難しい。買取をした段階で売買契約が成立したと見做されるので、そこで刑事事件は終了し、示談が成立したという見方をされる。さらに損害賠償請求すると過剰請求になる。

〔「被害届」は必ず提出する/未提出だと損害賠償請求で不利に〕
窃盗罪は、未精算の商品を私物のカバンや衣服などに入れたことを確認した時点で成立する。窃盗罪が現行犯として成立するのは、犯人が商品を手に取り、自分の支配下に置いたときだ。ところが、一般的に万引きは商品を精算せずに店を出た時に成立すると思われており、店舗外で捕捉することが多い。
なぜ「店舗外で声をかけること=窃盗罪の成立」という風潮が一般的になっているかというと、「不法領得」という考え方があるのが理由。不法領得は他人が所有する商品を不法に領得(取得)する行為のことだが、刑法では罪を犯す意思がない行為は罰しないとされている。
かつて、ある窃盗罪の裁判の過程で、弁護士が「被疑者は盗むつもりはなく、不法領得の意思はなかった。だから窃盗罪にあたらない」という弁護を行い、最高裁で認められた判例がある。「手に持っているのが邪魔だからバッグの中に入れただけ」と言われたら起訴できない判例ができてしまったため、店舗外での捕捉が一般的になった。
万引きされたとき、被害届を警察に出してほしい。以前よりも簡略化されたとはいえ、手続きには時間がかかる。しかし被害届を出しておかないと、被疑者が捕まって損害賠償請求する時、過去に盗まれた分の商品代を請求できない。また、被疑者が捕まった際に被害届を出していないと捜査対象として認められない。ある書店のA支店で捕まえても、過去にB支店やC支店で捕まえた時に被害届を出していないと、罪が軽くなってしまう。そうすると起訴されても情状酌量の余地ありとされたり、起訴猶予となることもある。
被害届を出したものの受理されないケースもある。警察は被害届を必ず受理しなければいけないが、面倒臭がって、初犯で反省しているとか金額が些少であると言って、検察に送致せず警察段階で微罪処分で終わらせたがることがある。ある書店が犯人を捕まえたときに被害額は1万2000円だったが、微罪処分で済ますために「2000円はなかったことにして、1万円にまけてほしい」という警察官がいた。
警察側に知識がない場合もある。窃盗や万引きを管轄するのは生活安全課または刑事課だが、それを知らずに近くの交番に通報する人が多い。交番は地域課でパトロールがメインだから、窃盗罪の詳しい知識がない。誤った情報を店に伝え、店の人も信じてしまって被害届は受理されず、逮捕されないケースもある。
未成年者の万引犯が悪質化している。「子どもだから捕まらない」と考えているため、何度も盗みを繰り返す子もいる。
少年法で、14歳未満で刑法に触れる犯罪を犯した少年を「触法少年」という。刑法では14歳未満の者の行為は罰しないと規程され、刑事未成年者の触法少年を処罰対象から除外している。警察は刑法の下で動くので、範囲外となる触法少年による万引きの被害届は受理されにくい。
最近の14歳未満の少年の中には、自分が逮捕されないことを分かった上で、あちこちで好き放題に万引きしている者もいる。食玩を100個万引きして、店内のトイレに持ち込んで中身だけ抜いた小学生がいる。
触法少年による万引きの被害届が受理されないと、15歳で逮捕されても初犯となる。でも被害届を受理してもらって記録として残しておけば、15歳で逮捕されたとき悪質な事案として処理してくれる。こうした子どもたちの犯罪を見過ごしてはいけない。
メンテ

Page: 1 |